授業のユニバーサルデザインと個別支援
                   熊本市立日吉東小学校 井手尾美樹
 
 『授業のUDを頑張っていたら、行動面に困り感のある児童が落ち着いてきた』という経験はありませんか。それは偶然ではなく、授業のUD化を通して、学習面だけでなく、行動面が落ち着く理由(手立て)が授業の中にあったからだと言えます。普段の何気ない授業の中の、どの手立てや支援がその子の行動を変化させたのかがわかれば、「あの先生だったからうまくいった」という限定的な支援に終わらずに、有効な支援が確実に引き継がれていくことにつながっていくと思います。

 逆はどうでしょうか。ある児童の個別の目標を意識していることで、授業のUDを機能させていくこともあると思います。
 こんな子を想定してみます。
・自信のなさや失敗への恐怖が強く、時に攻撃的でトラブルになりやすい
・他者の意図を理解したり、自分の考えを相手に正しく伝えたりすることが難しい
・友だちとかかわり合うことが苦手で、自分の考えを言わない、言えない

<つけたい力>を
○自分の考えを伝えることができる・伝える方法を知る
○「失敗を怖がらなくても大丈夫」「間違いは失敗ではない」ということを知り、耐性をつける

<支援内容>を
●安心して話せる環境を整える
●支援や成功体験と組み合わせながら、チャレンジできる機会を作る
●「みんなと意見が違う」「問題を間違えた」等は、『自分だけでなく周りの友だちにも起きていること』ということを知る。周りの児童とも共有する。
●いろんな表現方法に触れ、自分が理解したり表現したりしやすい方略を自覚する
と立てるとします。

 一斉授業内で個別に配慮することも大切です。しかしその前にもう一度、その子の理解の程度を把握した上で、A児に発表の機会を与え、自分が言えそうなところまで、自分の言える言葉で書いたり言ったりさせて、その続きを友だちが発表する。
 集団にとっては「読み取る」活動になり、A児の表現を違う言葉で誰かが言い換えてくれたり図にしてくれたりすれば、その子は新しい表現方法を知ることができます。集団にとってもあらゆる表現方法で考えを広げたり、共有化できたりすることに繋がります。その子の考えが間違っていたとしても、誰かが「Aさんはこう考えたんだと思います」と言ってくれたら、間違いは間違いにならず、A児は考えることに主体的になり、授業に積極的に参加しようとすると思います。「自分はここで発表ができた」「自分の考えをもとにみんなが考えてくれた」という安心感や、失敗への抵抗感もぐっと減り、行動が落ち着いてくることは必然です。もちろん、学級にとっても、個々を受け入れる風土や互いをサポートする雰囲気、自分の良さを感じ、安心感のある学級になることは想像できます。

 個の視点から授業が変わる、生きた授業を作り上げていくことも大切なのではないでしょうか。