子どもの学びに寄り添う
                    髙田実里(熊本大学教育学部附属小学校)
 ある日の5年生での外国語活動の授業。この年、初めて外国語活動の授業を経験する子どもたちを担任していました。やりとりするのに必要な英語の語彙や表現を、カルタのようなゲームを通して繰り返し聞いたり、声に出したりしながら、慣れ親しんでいく活動をした日のことです。授業後にあかねさん(仮名)が
「先生、もっと文字を書いてほしいです。声ばっかり聞いていても、何のことを言っているのか、ぜんぜん頭に入ってこない。絵だけじゃ覚えられないし。」
と声をかけてくれました。
 あかねさんは、構成をよく考えて文章を書いたり、漢字を覚えたりすることが得意で、文字を活用して思考したり理解したりすることに強みをもつ子どもでした。他教科の授業でも、自分の考えを書き表しながら思考を整理するところもあり、話し言葉で自分の考えを説明しようとすると、「ちょっと、まだ上手く言えません。」と言う場面もありました。また、どの教科でも丁寧にノートに記述し、理解度も高い子どもでした。外国語以外の学習では、文字を活用して記憶したり、考えを整理したりして、自分の得意な方略で学ぶことができていたのだと考えます。
 わたしは、あかねさんの言葉を受け、学級の他の子どもたちにも、「もう少しアルファベットが書いてあったら、思い出しやすい人いますか?」と尋ねました。学級の2〜3割くらいの子が、書いてほしいと答えました。それから、絵カードにはできるだけアルファベットの文字を添えました。
 また、板書には、文字とイラストを合わせて示すよう心がけました。そして、自分の生活経験と関連付けて英語表現を記憶して発音している子どもや、頭文字等の音をヒントに読み方を推測している子どもがいることを学級で共有するようにしました。
 
 「多様な学び方があるのが自然なことで、自分に合う方法を一緒に探していこう。」どの教科でも、このような考え方を子どもたちに語りかけるようになりました。
 上天草特産の車エビをALTに紹介しようと、子どもから英語でどう表現するのか尋ねられました。エビの写真と “Shrimp”という文字を添えて、子どもたちと一緒に発音しました。 “Shrimp”は子どもたちにとって、耳に馴染みのない音声表現でしたが、あかねさんは1週間後にもしっかり覚えていました。「もう覚えたんだね、すごい。この英語の言い方、どうやって覚えたの?」『先生、だってShrimp ってSから始まってるでしょ。だからシュッて感じ。それに最後がPだから、プッて感じだから、それがヒントっていうか。』こんな風に、子どもに自分の思考を言語化させるような問いかけをすることで、自分の学びやすい方略を自覚することや、他の友だちの考え方を知ることにもつながると思っています。
 多くの子どもにとって、外国語学習の入門期にあたる小学校段階。そこでの外国語活動の時間は、「音声を中心に」ということが現行の学習指導要領でも、そして次期学習指導要領でも明確に示されています。人間の言語習得の過程を考えても、おしゃべりを始める前には「音声」をシャワーのようにたくさん浴びて、その中で自分の欲求を満たしたり、家族とのやりとりがあったりして、言語表現の意味や機能を理解していくことは自然なことです。ですから、言語によるコミュニケーションの力を育てていくときに、まず「音声を中心とした」活動を豊富に経験することは、重要なことだと言えると思います。
 しかし、わたしたちはそのような「理論」と合わせて、子どもたちの事実を見とり、個々の学びのプロセスに寄り添う姿勢をもち続けたいものです。このあかねさんとのかかわりが教えてくれることは、「学び方はそれぞれ違う」「自分の学び方、得意な思考の道筋を自覚することの大切さ」ではないかと考えています。そのために教師ができること、すべきことは「この教え方がベスト」「このように学ぶはずだ」というフィルターにとらわれすぎないことではないか、と考えています。子どもと共に、「どんな方法が分かりやすかった?」「先生、こんな方法どうかな!」と考えを聴き合いながら、学習を進める構えをいつも忘れずにいたいと思います。