御船中学校 教諭 山本 貴一
「はい、今日の授業は〇ページから・・・」という導入を、以前は平気でやっていました。今考えると、何とも魅力を感じない、授業の始まりです。子どもの立場に立ってみると、「あー、また今日も先生のおしゃべりの始まりか・・・」と落胆したことでしょう。
授業UDに出会って、私が最も変化したのは授業の「導入」です。これまでの自分の実践を振り返った時、どれだけ、一部の子どもたちと授業をやってきたことか。「全員参加の授業をしたい!」と考えた時、とにかく導入で、子どもたち全員をひきつけたいと思うようになりました。
導入の工夫を色々試みました。私は中学校の社会科の教員です。単純に見せていたグラフや写真資料の一部を隠してみました。するとどうでしょう、隠すことで、一気に注目度が高まりました。いつもは見向きもしなかったA君の顔が上がっていました。そして、隠していた部分をじらしながら見せると「なんでそうなるの?」とつぶやきが聞こえてきました。視覚化の工夫がA君のつぶやきを導いたのです。私は、自分が魔法使いになったよう気持ちになりました。
「ダウトクイズ」を取り入れました。子どもたちに、前の時間に学習したことの中に間違いを入れてクイズとして発表させました。すると、不思議です。私が一方的に説明するより、みんなはるかに集中して話を聞いていました。挙手が苦手なBさんがすっと手を上げました。発問の焦点化がBさんの挙手を導いたのです。私は、手品師になったような気分になりました。
私は、授業UDに出会うまでは、「自分の説明で授業を何とかしよう」と考えていました。授業の主役は「自分」だと考えていたのです。しかしそれは、間違っていました。授業の主人公は子どもたちです。そしてその主人公である子どもたちが「謎解きの旅」にでかけるのが授業だと感じています。導入は謎解きの旅のほんの入り口です。
私たち教師は、魔法使いであり、手品師です。それも、自分が自己満足を得るための魔法使い、手品師ではなく、子どもたちを旅へ誘うそれらです。
授業は「謎解きの旅」。私の旅(授業づくりの旅)も始まったばかりです。
くまもと授業のユニバーサルデザイン研究会第15回目の学習会は、御船町立御船中学校の下城秀樹先生を講師に迎え、これまでの実践紹介と授業UDに欠かせない「教師のファシリテーション・スキル」について学びます。下城先生は第9回研究大会を行った御船中学校の研究主任として、授業UDを基盤とした「学び合い」の在り方について研究を深め、実践を重ねておられます。御船中学校での研究大会を終え、学びの多い学習会になると思います。多数のご参加をお待ちしています。
平成30年3月8日(木) 熊本市東部公民館
18:30 受付
19:00 開会
19:05 実践紹介と授業プレゼンテーション 御船中学校教諭 下城秀樹
20:35 質疑と協議
21:00 閉会
こくちーずでの申し込みはこちらから↓
http://www.kokuchpro.com/event/2285599ab3d5003bc609ee7a451b1331/
チラシのPDFデータ→第15回学習会
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くまもと授業のユニバーサルデザイン研究会第9回研究大会が無事盛況に終わりました。
御船中の先生方の公開授業も、盛山先生の公開授業も、生徒がいきいきと学んでいました。
UDフォーラムでは、菊池哲平先生と下城秀樹先生から具体的な実践について学びました。
UDシンポジウムは礒部先生の進行のもと、桂先生、小貫先生、盛山先生から新学習指導要領と授業のユニバーサルデザインについて沢山のことを学びました。
これからの授業実践に役立つ学びがびっしり詰まった研究大会でした。
たくさんのご参加、ありがとうございました。

UDシンポジウムin御船 小貫 悟先生

UDシンポジウムin御船 桂聖先生

公開授業2 盛山先生による数学のj授業

UDフォーラム 菊池哲平先生&下城秀樹先生

公開授業1 下城秀樹先生(理科)
UDフォントから考える「ユニバーサルデザイン」の意味
熊本大学 菊池哲平
最近の大学の講義ではパワーポイントなどのスライドを使うことがほとんどです。私も大学講義だけでなく研修や講演などではパワーポイントを使用しています。視覚的な情報を提示しながらの方が言葉だけの説明よりも理解しやすくなることは言うまでもありません。
先日、モリサワというフォントメーカーが「MORISAWA BIZ+」というサービスを始めました。ユニバーサルデザインフォント「BIZ UDフォント」を無償(ユーザー登録は必要)で提供するものです(詳しくはhttp://bizplus.morisawa.co.jpをご覧下さい)。このユニバーサルデザインフォントというのは、通常のフォントよりも視認性が高くなるように調整されていて、例えば濁点と半濁点の判別や、細い文字がくっきりみえるようになど、デザインが工夫されています。私もさっそくユーザー登録して、授業で使用するスライドのフォントをUDフォントに変更しました。
さて、いつものように資料を配付してプロジェクターでスライドを映写しながら講義をしました。受講者は60名程度ですが、ほとんどの学生はこれまでと同じような反応でした。もちろんスライドのフォントが変わったことに気づいた学生も多かったようですが、中にはフォントが変わったこと自体に気づかなかった学生もいました。ところが授業の感想カードに「今日のスライドは見やすかった」「いつもは眼鏡をかけないと見えないが、今日は眼鏡なしでも見えた」という感想が3名ほど寄せられていて、“ああ、やっぱり効果があるんだなぁ”と感じました。
ユニバーサルデザインでは、多数の人が意識しないまま使用しているものを、少数派の人たちにとって利用しやすいように調整していきます。UDフォントの例でいえば、ほとんどの人はこれまでのフォントとUDフォントのどちらを使っても同じように見えるのですが、ロービジョンの人にとってはUDフォントの方が見えやすいのです。したがって、ユニバーサルデザインの効果を感じ取ることができる人はどうしても少数派の人たちになってしまいます。
ユニバーサルデザインは少数派にとって必要なものであるのに対し、大多数の人にとってはどちらでも良いというものであるため、結果的に費用対効果、すなわち“かけたコストに対してどれだけのメリットがあるのか”という議論に陥ってしまうことがあります。たしかにUDフォントを使用するためには、いくらか労力(コスト)がかかります。ユーザー登録してフォントをインストールしたり、授業のスライドを作り直したり・・・しかし、「この作業によって見えやすくなる人がいる」という視点を大事にすることこそが、ユニバーサルデザインの本質的な意味なのだと改めて感じたところです。
授業のユニバーサルデザインと個別支援
熊本市立日吉東小学校 井手尾美樹
『授業のUDを頑張っていたら、行動面に困り感のある児童が落ち着いてきた』という経験はありませんか。それは偶然ではなく、授業のUD化を通して、学習面だけでなく、行動面が落ち着く理由(手立て)が授業の中にあったからだと言えます。普段の何気ない授業の中の、どの手立てや支援がその子の行動を変化させたのかがわかれば、「あの先生だったからうまくいった」という限定的な支援に終わらずに、有効な支援が確実に引き継がれていくことにつながっていくと思います。
逆はどうでしょうか。ある児童の個別の目標を意識していることで、授業のUDを機能させていくこともあると思います。
こんな子を想定してみます。
・自信のなさや失敗への恐怖が強く、時に攻撃的でトラブルになりやすい
・他者の意図を理解したり、自分の考えを相手に正しく伝えたりすることが難しい
・友だちとかかわり合うことが苦手で、自分の考えを言わない、言えない
<つけたい力>を
○自分の考えを伝えることができる・伝える方法を知る
○「失敗を怖がらなくても大丈夫」「間違いは失敗ではない」ということを知り、耐性をつける
<支援内容>を
●安心して話せる環境を整える
●支援や成功体験と組み合わせながら、チャレンジできる機会を作る
●「みんなと意見が違う」「問題を間違えた」等は、『自分だけでなく周りの友だちにも起きていること』ということを知る。周りの児童とも共有する。
●いろんな表現方法に触れ、自分が理解したり表現したりしやすい方略を自覚する
と立てるとします。
一斉授業内で個別に配慮することも大切です。しかしその前にもう一度、その子の理解の程度を把握した上で、A児に発表の機会を与え、自分が言えそうなところまで、自分の言える言葉で書いたり言ったりさせて、その続きを友だちが発表する。
集団にとっては「読み取る」活動になり、A児の表現を違う言葉で誰かが言い換えてくれたり図にしてくれたりすれば、その子は新しい表現方法を知ることができます。集団にとってもあらゆる表現方法で考えを広げたり、共有化できたりすることに繋がります。その子の考えが間違っていたとしても、誰かが「Aさんはこう考えたんだと思います」と言ってくれたら、間違いは間違いにならず、A児は考えることに主体的になり、授業に積極的に参加しようとすると思います。「自分はここで発表ができた」「自分の考えをもとにみんなが考えてくれた」という安心感や、失敗への抵抗感もぐっと減り、行動が落ち着いてくることは必然です。もちろん、学級にとっても、個々を受け入れる風土や互いをサポートする雰囲気、自分の良さを感じ、安心感のある学級になることは想像できます。
個の視点から授業が変わる、生きた授業を作り上げていくことも大切なのではないでしょうか。
くまもと授業のユニバーサルデザイン研究会の第9回研究大会は、「授業UDで目指す『主体的・対話的で深い学び』~ユニバーサルデザインの視点に基づく指導方法の追究~」というテーマで開催します。
公開授業を行う御船中学校では、「中学校にこそ授業UDを」との理念の下に、「すべての生徒が楽しく『わかる・できる』授業」に基づく「より深い学び」に向けた取組を進めています。
研究会当日は、「日本授業UD学会」理事長の桂先生をはじめとした著名な講師及び助言者をお招きし、「授業UD」の可能性を発信したいと考えています。多くの皆様のご参加をお待ちしています。
なお、本大会は、御船中学校「平成28・29年度御船町教育委員会指定『学力充実』研究発表会」との合同開催です。
申し込み http://www.kokuchpro.com/event/bba96d4c530717ef70425ef40fcd24b1/
講師・研究協力者 紹介
日本授業UD学会 桂 聖(かつら さとし) 理事長
明星大学 小貫 悟(こぬき さとる) 教 授
福岡教育大学 礒部 年晃(いそべ としあき)准教授
筑波大学附属小学校 盛山 隆雄(せいやま たかお)教 諭
日 程
9:00 受付
9:20 全体会
9:45 公開授業 (授業者:御船中学校職員)
10:45 授業説明 (説 明:御船中学校職員)
11:15 「数学」公開授業
授業者:筑波大学附属小学校 盛山 隆雄 教諭
~昼食休憩~
13:00 授業UDフォーラム in 御船
・御船中学校の研究概要をもとに「授業UD」を協議
14:00 授業UDシンポジウム in 御船
・講師、研究協力者による講話や提案等
16:20 閉会行事
後 援 熊本市教育委員会 御船町教育委員会 熊本県特別支援教育研究会
資料代 : 2,000円
その他 : 駐車場に限りがありますので、できるだけ乗り合わせのうえ、ご来場をお願いします。悪天候、災害等やむを得ない事情の場合には中止することがあります。その場合には、本研究会HPでお知らせします。
申込み : 以下のいずれかの方法でお申し込みください。
①こくちーずで
②御船中学校から1月上旬に配布予定の研究案内(第二次)により以下の宛先にFAXで
たくさんのご参加をお待ちしています。
こくちーずからの申し込みはこちらから↓
http://www.kokuchpro.com/event/bba96d4c530717ef70425ef40fcd24b1/
チラシのダウンロード↓
お問合せ
【問い合わせ】
くまもと授業UD研究会事務局(御船町立御船中学校)
下城 秀樹 TEL 096-282-0002 FAX 096-282-1591 Mail:ud_kumamoto@outlook.jp
授業が始まってすることといえば、1分半の黙想です。
落ちついて学習するためです。
目を開けると、本時のメニューを確認します。1時間の中ですることを箇条書きで示して、子どもたちと確認するようにしています。
国語であれば、たいてい音読からのスタートです。12月にもなると、子どもたちは「最初は音読でしょ。」と得意げに言ってくるようになりました。
私は、主体的な学びのスタートである、だれでも安心して参加できる授業づくりを日々心掛けています。
例えば、選択肢のある問いからスタートして、挙手によって意思表示させることや、発表する時みんなが見えるところに立って発表するルールの定着や、物語の順に挿絵を並び替えるといったUDの技法の利用など、できるところから取り入れています。
私自身、授業UDについての学びはまだまだですが、授業づくりがある程度パターン化されて授業者にとっても子どもにとっても分かりやすい授業展開になっていくことで、だれもが「わかる・できる」準備ができたと言えると思います。
菊池市立旭志小学校 皆吉美香
見方・考え方は「働かせる」もの 山田光太郎
現在特別支援学級の担任をして5年目になります。それまでは通常学級の担任をし、算数科研究を中心に実践を積み重ねてきました。
先日、くまもと授業のユニバーサルデザイン研究会の学習会で実践発表をさせていただく機会があり、これまで13年書きためた教育論文を見直すことから始めました。
6年前の自分の論文から、6年生の「資料の特徴を調べよう」という単元で、自分の発問と子どもの反応を9時間分まとめた実践がまず初めに目に留まりました。「言語活動の充実」が求められていた頃でした。発問の実践なのに、視覚化の努力をおしまなかったなあと、板書の写真を見直してみて感じたところです。
研究主任をしている関係で、現在勤務している学校で7月に算数授業UDの提案授業を通常学級で行いました。4年生の3けた×3けたのかけ算の筆算です。
その頃、私は算数・数学的な見方・考え方は「身に着ける」ものと考えていたので、山場にたどり着くまでに押さえておきたい用語や学習内容をていねいに共有化していきました。その結果、教師と子どもとの1対1の学習が長引き、時間も足りず、結果だらだらとした授業になってしまいました。
9月に日本UD学会の全国大会に参加しました。プール学院大学の、石塚謙二先生の基調提案の中で、教科の本質は、「見方・考え方」の深化であり、「見方・考え方」は単に身につけるだけのものではなく「働かせるもの」とありました。それを聞いてとてもはっとさせられました。そして、新指導要領を改めて読みなおしてみると、やはり「働かせる」とありました。
そこで、9月にもう一度4年生の面積で授業をさせてもらいました。1㎡は何㎠かということを考える学習です。1mは何㎝かとか、余計な押さえをせず、3人グループに1枚、実際の広さの1㎡(1cm幅の縦横の罫線をいれたもの)を配り、調べさせてみました。「こことここをかけて~」とか、「たてが100こになるはずだから~」とか、子どもたちは実際の1㎡に1㎠がいくつあるのかを算数・数学的な見方・考え方を「働かせ」ながら学び合い、全員が1㎡が10000㎠だという結論にたどり着くことができました。私が余計なことをしゃべらなくても、子どもたち同士で論理的に話し合って学習を深めていました。
見方・考え方を「働かせる」という視点で授業をデザインしたら、必要な手立ても最小限にとどまり、授業がシンプルかつ、全員参加型・全員満足型に向かっていったような気がします。
これまでの実践を振り返り、実践を積み重ねれば積み重ねるほど、UDの視点は教科の本質にせまるために欠かせないものと感じています。また、現在特別支援学級を担任し、これまでの自分の授業のあり方について改めて見直す日々です。
「研究授業の前時がうまくいく理由」
若葉小 井上伸円
研究授業の前日に、授業者からよく聞く言葉。
「あー、今日が本番だったらよかったのに・・・」
もちろん私も、よく口にした言葉です。そんな時は、たいてい本番の研究授業がうまくいかない。なぜ、この現象は起こりがちなのでしょうか。
やはり、本番の授業はギャラリーもいますし、子どももいつも通りではないでしょう。授業者は肩に力も入り、前のめりになりがちで、子どもの声をしっかり聴くことができないこともあるでしょう。それに比べると前時の授業は授業者も子どももいつも通りの力が発揮できるでしょう。しかし、前日の授業が上手くいくのは案外、次のような理由からではないでしょうか。
○ 前日の授業は、本番を控えているので教師が欲張らない。
○ 前日の授業では、(教師が)学習が先に行き過ぎることを嫌い、今、子どもがどんな考えをもっているか探ろうとする。
結果、授業が自ずとシンプルになります。また、教師が子どもの言葉にしっかりと耳を傾け、根拠を尋ねたり、ほかの子どもに問い直したりしながら児童の考えが吟味されます。
一方、本番の授業はどうでしょうか?
○ あれもこれもと教師が欲張ってしまいがち。
○ 指導案に書いた授業のゴール目指して、教師は前へ前へと学習を進めがち。
前時の授業で出された良い考えも紹介したいし、これまでの学習も振り返りたい。気がついたら本時の課題が提示されるまで20分が過ぎていた。普段はやらない「振り返りシート」も書かせなきゃならないから、どんどん教師が学習を進める。期待する答えが出ないために発問を連発。でも、板書だけはいつもより見栄えがよかった・・・。
こんなことにならないためにも、授業に挑む際にudの授業づくりの視点を意識し「子どもと共に授業を創る」という教師の願いを高めていきたいものです。でも、研究授業になると、なかなか子どもの言葉をじっくり聴けないし、欲張っちゃうんだよなー。
くまもと授業のユニバーサルデザイン研究会第13回目の学習会は、
日吉小学校の山田光太郎先生による実践発表:『算数授業のUD実践』~どの子も楽しく「わかる・できる」達成感のある算数の授業を目指して〜
算数の授業づくりワークショップ:「全員満足型算数の授業づくり」を行なっています。
遅い時間にもかかわらず多くの先生方に参加していただいています。
今日もみんなで一緒に学びたいと思います。